日本共産党中央委員会ジェンダー平等委員会の回答


ご意見とご質問を多数いただきましたが、共通する部分がかなりありましたので、逐条的 にお答えする形ではなく、問題の中心点について、私たちの立場をお伝えし、回答とさせて いただきます。
ジェンダー平等社会とは具体的にどのような社会のことか?
ジェンダー平等」という言葉を、私たちは「社会的性差の平等」や「男らしさと女らし さを平等に」という意味で使っていません。社会的にも、そのような意味では使われていま せん。
私たちがめざすジェンダー平等の社会とは、あらゆる分野で真の男女平等をおしすすめ るとともに、誰もが、性別・性的指向性自認にかかわらず、差別なく、平等に、尊厳をも ち、自らの力を存分に発揮できるようになる社会です。
●特例法の手術要件を撤廃すると、女性や少女が危険にさらされる可能性が増えるのでは ないか?
ジェンダーアイデンティティー(性の自己同一性に関わる性自認)は、個人の尊厳に属 するものとして尊重されるべきものです。国際的な人権基準の発展の中で、性自認のありよ うを病気とみなす「病理モデル」から、本人の性自認のあり方を重視し尊重する「人権モデ ル」への移行が進んでいます。現在、日本では法的な性別変更の要件を定めているのは「性 同一性障害特例法」であり、生殖機能をなくし、変更後の性別の性器に近似する外観を備え る手術が必須とされています。しかし、体に深くメスを入れ、場合によっては命にもかかわ る治療・手術を、法律上の性別変更の要件として強要することは、人権上、大きな問題があ ります。日本共産党は、性別変更の要件について、「病理モデル」から「人権モデル」への 移行にふさわしいあり方を検討する方向を表明しています。ただし、専門的・具体的なこと については、専門家や当事者、広く市民・国民からの声も聞き、立法提案についても多角的 な検討・研究や、法制の専門家などとやりとりすることが必要になります。特例法について 具体的にどのような法改正をするかについては、現時点では具体化されていません。
私たちが懸念をもって見ているのは、性自認の尊重を進めることと、女性の安心・安全と が、対立するものとして議論されることです。
女性たちが、女性専用スペースが安全・安心な空間であってほしいと願うことは当然です。 女性に対する性暴力・性犯罪を防ぎ根絶する課題は、トランスジェンダーの問題が議論の俎 上にのぼるずっと以前から、一貫して切実なものであり続けています。性暴力やセクシュア ル・ハラスメントなどのトラウマから、女性のスペースに、体格や腕力等でまさる男性が入 ってくることに対し、そうなるかもしれないと想像しただけでも大きな不安を感じるもの だということを、社会はもっと深く理解し、女性が安心・安全にスペースを利用できるよう

にするために力を尽くすべきです。トイレや更衣室等のセキュリティの強化、個室化、だれ でもトイレ、貸し切り・家族風呂等々、さまざまな工夫が社会的にも取り組まれていますが、 これらを発展させていくべきです。
同時に、性自認を、法律上の性別変更の根拠にすべきでないということになれば、トラン スジェンダーの人たちの存在を社会の側が排除することになりますし、「そうしなければ女 性は安全に暮らせない」という論理は、トランスジェンダーを性犯罪者予備軍と見なすとい う差別につながってしまいます。
政治的・社会的に形成され歴史的に押しつけられてきた日本社会の厳しいジェンダー規 範、構造的な性差別のもとで、性暴力が温存され、性的マイノリティが排除・分断されてき ました。こうした構造を被害の実態に基づいてひとつひとつ変革し、性暴力の根絶と、多様 な性のあり方の尊重とを両立させる社会を実現していくことが、当事者の苦痛を軽減して いくうえでも必要です。
分断ではなく、連帯してジェンダー平等社会をめざす運動を進めていきたいと願うもの です。
●「トランスジェンダリズム」について
日本共産党トランスジェンダリズムの立場に立っているという誤解があるようです。 トランスジェンダリズムとは、意見 4 で紹介されている研究者の文章によれば、「男性が『自 分は女性だ』と自認ないし自称すれば、あるいは『自分の心は女性だ』と主張すれば、実際 においても女性として扱われるべきであるとする思想(性別の自己決定論)」「とくに身体違 和を持っていなくても、したがって何らかの医療的な措置を受けていなくても、女性である と自認ないし自称すれば女性として扱われるべきで、そうしようとしない者はすべて差別 主義者(「TERF」ないしトランスヘイター)であるという」ものだとのことですが、私たち はこのような立場には立っていません。
スポーツや統計への悪影響の懸念もご意見の中にありましたが、「上位をトランス女性を 名乗る男性が独占」などといった、極端かつ不合理なことが起こらないように、それぞれの 分野で、目的に沿い、公平・公正を担保する、合理的なルールが定められるべきだと考えて います。スポーツ界では、多様な性のあり方を踏まえたガイドラインの作成や、競技団体ご とのルールの策定・検討が行われていますし、ジェンダー統計についても、政府の有識者検 討会で議論・検討が行われていると承知しています。
2022年11月15日 日本共産党中央委員会ジェンダー平等委員会